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は大きな喜びです。私も東京の西の端で、十人足らずの仲間とささやかな公演活動をしておりますが、私たちが今日安心して公演できるのも、たんぽぽを始め、児童劇に情熱をかけてきた諸先輩が、その道をつけてくれたからに他ならず、公演先でたんぽぽの人間味あふれる活動を伺い知る機会も少なくありません。今回、稽古場であるいは稽古後の談笑の中で、たんぽぽの俳優たちの作品に取り組む姿勢にふれ、新鮮な感動を覚えました。
それは、生きることが自分の為だけではないことを知っている人々の生き様とでもいうのでしょうか。和することの楽しさ、他へ働きかけていくことの喜び、そしてそれらの土台となる誠実さ。太鼓の稽古を通してもその熱心さや情熱に圧倒されました。太鼓は明けば音が出る単純で素朴な楽器なのですが、それだけに叩きようによっては様々な表現をしてくれます。
たんぽぽの俳優たちが打ち鳴らす太鼓は、たんぽぽの人となりを存分にみせてくれると同時に、劇的効果を出してくれると思います。ともあれ龍の子太郎にこめられた劇団のメッセージは、人間が人間らしく暮らしていく知恵、労働から得る真実を問うていると私は受け止めました。これからも先輩劇団として新たなる五十年、百年を歩いて頂きたいと念願しています。

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久しぶりにワクワク
昨年の早い時期に、劇団代表の吉岡氏が上京されて、「来年は劇団も五十周年を迎え、記念行事として、”龍の子太郎”を計画しているが、照明ブランをお願いしたい」といってこられた。
私もかつて劇団に八年ほど籍を置き、小百合葉子先生のもとで、演劇の基本から、作法まで青春時代の大事な時を学んだ、東京に出てからは、照明の専門会社で数多くの舞台にたずさわったのだが、現在は長いこと照明の仕事から遠ざかっていたので、吉岡氏には丁重にお断わりを申し上げた。
しかし、五十周年のおめでたい行事でもあり、この台本も、劇団生え抜きの有望作家、武井さんの乗りに乗っている作品で劇団からも素晴らしい作家が育って来たことに、大変な喜びを感じて、私もお受けすることにした。
本当に長いブランクで自信などはもうとう無いのですが、演出の熊井先生始め、一流スタッフの先生方と劇団の皆さんとご一緒に仕事をさせて頂いて、再び創造の世界の素晴らしさに、ワクワクしながらの楽しいお仕事が出来たこと、深く感謝しています。
信州の木曾の山の中で、小さいときにたんぽぽの芝居を見て感銘を受け、この世界に飛びこんだのですが、この仕事を続けてこられて、五十年目の記念すべき作品に参加出来たのも大きな喜びでした。五十周年、本当におめでとうございます。子供たちに夢を!まさに花開こうとしています。

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夢がひとつひらいた
ミカン箱の回りに防水布を張り青い絵の具をぬって一号船が完成した、山川に浮かべるとプカリと進む。小学校二年の夏、夢がひとつひらいた。海辺に生まれ波音と潮風にくるまれて育ったせいか海をみているだけで心が休まる。
小学校六年。新聞記達を三年続けゴムボートを買った。初めて海へでる。ユラユラと海に抱かれて夢がまたひとつひらいた。
そして三十年、仕事が終わると海へ出る。船長免許を取り、約十メートルのヨットを手に入れ白い帆に風をいっぱいに受けて遊ぶ。夜、ひたひたと船によせる波音を子守歌にユラリユラリと夢の中へ。
私の仕事である音響効果。音を想像し、音を作り、音を再生する。各種音響器材の開発で音作りもとても面白く楽しい仕事になってきた。ナマ音、レコード、六ミリテープの時代から、CD,LD,MD、サンプリング、コンピューター、そしてデジタルからアナログヘ、夢あそび、音あそびの世界がさらに広がる。
日が昇る。雲ひとつない青空。青い海。船はのびやかな風をうけ、グイッと水平線に向かって進路をとる。
始めも終りもない空と、始めも終りもない海に。
五十年は通過点のひとつです。「劇団たんぽぽ」のさらなる飛躍を、そして子供たちに夢を。
五十年、夢がまたひとつひらいた。

 

 

 

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